千一秒物語

千一秒物語

キャスト:町屋千乃介(杉山紀彰)×町屋一乃介(檜山修之)他

新作ー! わっほい。
なんか不思議な空気感のある話だなあ。広島弁?なのかな。広島弁の上に千乃介のモノローグが独特のテンポと言語感覚なので、なんだかカラフルでマンガっぽい。ある時点を境にモノローグが一乃介のターンになるのだけど、そこからはセピアな世界になる。双子の話なんだけど、ひとつの心の裏表みたいな、そんな印象を受けました。

お話は、双子の兄が好きで好きでしょうがない千乃介と、それをどうしていいか判らない一乃介の、ゆらゆらと揺れる気持ちの話。

千乃介は、小さなときからずっとずっと、まっすぐ一乃介が好きで。だけど本当の兄弟だし、思いを告げて嫌われるのが怖くてずーっと悶々としている。頭の中は高校生らしい妄想でいっぱいで、一乃介の仕草のひとつひとつにいちいちドギマギして、テンションは上がったり下がったり。好きで、なんでいかんの? 好きって、なんで言ったらいかんの? と、回る疑問。一回転するごとにちょっとずつ高まってくる気持ち。ゆるい螺旋はちょっとずつ膨らんで、やがて、はじけて。一乃介に思いを告げるのだけど。

一乃介も、千乃介が好き。だから、ずっと一緒にいたいのだ。でも、気持ちなんて危ういものは信じられない。だって、変わってしまう。いつの間にか、自分がそういう風に千乃介を好きになってしまったように。そういう風に好きなことで失うものの方が怖かったりする。恋なら、いつかは冷めるもの。でも、血の絆は死ぬまで続く。今の気持ち以外の全部を失うことと、兄弟としてこのまま、全部を手に入れたままでいるのと。どっちが「正しい」のか。

結局迷ったまま止まっている話なんだよね。今、二人を取り巻いている世界はとても優しくて。お互いを思う気持ちだけが、凶暴で異質。自分なんかはわりと、叩き壊して最後に残ったものだけ大事にしようという性質なのでw 一乃介は欲張りだなあと思ってしまうのだけど。どうなんだろ。わが尊敬するコーカミさんが、若い頃は守りたいものが明確じゃないからこそ、全てを守りたくて頑なになるとか言ってたのだけど。そういうことなのかなあ。ううむ。
何が正しいのか判ってるなんて、高校生のクセにナマイキだぞ一乃介w 年取れば年取るほど、何が正しいのかなんて判らなくなっていくのに。もー。それとも、既に何が正しいのか判らないから、自分が決めた「正しいこと」にしがみつくのか?
変わらないものなんてない、のは、本当。どんなに変えたくないものでも、変わってしまうものだけれど。一乃介は、どうしてあそこまで変化に対してネガティブなのだろう。変化をひどく恐れていながら、今が幸せの絶頂っていうわけでもなさそうで。全部を薄く大事にする代わりに、本当に欲しいものには手を出せない、そんな感じがする。

そういえば、千乃介を好きになった女子たちも不思議といえば不思議なんだよな。コクってフラれました同盟て。自分の恋心より、みんなで仲良くすることを選んで。いやまあ嫉妬にまみれて煩悶するのはしんどいし醜いよ? それはそうなんだけど、恋心を乗り越えてその道を選んだというより。傷つかない場所に逃げ込んだだけのように、見える。一乃介の結論にしても、彼女たちにしても、誰も傷つかないことが正しいこと、なのかなあ。うーんうーん。
ざっくりと心に穴が空くより、ちょっとずつの擦り傷なら耐えられるっていうことなのか、なあ。

檜山さんは、なるほど高校球児で短髪の声。低くて、口が悪いw 淡々とデレられるとどっきりするなー。デレつつも、結論はああなんだけどさ。
杉山さんは元気よく悶々としてましたw 

うんまあ、個人的な話をしますと、昔若い子とちょっとケンカしたことがありまして。その子も、誰も傷つかないのが正義だって言ってたような。自分がちょっと苦しいのはいいけど、自分が誰かを傷つけることだけは許せない、という感じだった。だってそれで傷つくかなんて人それぞれじゃないのか、と言ってはみたけれど。今が大事だから、今を壊したくないから、ギリギリまでは我慢するんだ、みんなそうなんだ、って、言われた。ちょっと痛いのを我慢して、YESと言うことで変わらずにすむなら。それが絶対いいことなんだ、と。
その考えは、未だに自分には判らないのです。この話には続きがあって、痛みが臨界点に達すると爆発しちゃうのです。全肯定から全否定へ。一度否定が始まると、異物とみなしたものを粉砕するまで止まらなかったり、する。関係を維持するって、そういうことじゃないんじゃないかなと思うのだけど。どうなんだろう。判んないなあ。