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キャスト:街井祐瑚(檜山修之)×街井湫(鳥海浩輔)・青木和貴(三木眞一郎)他

メビウスの輪。うむ、なんかすごい考えちゃったなあ。
巷では兄さんヒドい! という意見を目にしますが、個人的には果たしてそうかな? という感じです。まあね、やってることはヒドいけどw なんでそんなことになっちゃったのかといえば、湫の愛が不可解だからなんだよね。

お話は、ずっと兄のことが好きだった弟・湫が、紆余曲折を経て兄と結ばれる話と、その兄がふらふらと昔の恋人によろめいて、フラれて弟のところに帰ってくる話の2本立て。攻様がよろめく話は珍しいですね。


「兄さん」こと祐瑚は、近視眼的で単純で、あんまり物事を深く考えない人で。その分判りやすくて行動力があるから、人望もある。友人間ではときどきやっちまうこともあるけど、憎めない、というポジションかな。直情的で、燃えやすく冷めやすく。意思が強いようでいて、意外と流されやすい。

弟の湫は、そんな兄にずっと憧れていた。湫は病弱で、兄のような行動力は望めない。ずっと死と隣り合わせにいて、人の手を借りないと生きていけない生活をしていると、本当に欲しいものを注意深く選別しなくちゃならない代わりに、その選び出した対象に深く深く執着することになる。全部を欲しがれないから、ひとつだけ。湫が選んだのは、「兄さんを愛すること」だった。何にも出来ない自分が、誰の力も借りずに出来るたったひとつのこと。それが、兄さんを愛すること。

祐瑚は湫に対して、実に色々なことを「やってしまう」。他の男との濡れ場を目撃して、怒りに任せて犯してしまったり、恋人にかまけて湫の大事な手術のときにそばにいなかったり。ましてやその恋人と再会した際、無神経にそれを湫に告げてしまったりもする。その上、その恋人とよりを戻しちゃったりするんだからひどいよね。
湫は、その全部を許した。そりゃあね、どんなにひどいことでも、時間が癒してくれて、結果許せることはあるよ。だけども。湫は「兄さんのしたいように」と、その場で兄を許してしまう。兄さんを愛しているから。兄さんのしたいようにすればいいんだよ。したいようにしているなら、僕はどんな兄さんでも愛していると。

祐瑚は、自分がヒドいことをしたという自覚がないわけじゃない。気づいたときにはすぐに謝るし、そんなことはもうしないと、繰り返し湫に誓う。それなのになぜ、祐瑚は過ちを繰り返すのだろう。ダメ人間だから? まあ、ダメには違いないんだけど、それにしてもヒドい。

さて。ここで湫のことを振り返ってみる。湫が選んだのは、「兄さんを愛すること」だけだった。それはどういう愛だっただろう。湫は兄さんを愛していたけれど、兄さんに愛されることは望まなかった。むしろ積極的に、愛されるはずなどないと思っている。兄への想いがばれて、形は恋人同士になっても。兄は何かの気まぐれで、自分を構っているだけだと思っている節さえある。湫は。兄への想いを独りで握り締めて、誰にも触らせようとしない。当の、兄にさえ。

けれども祐瑚は。ずっと湫が好きだった。湫の想いを知るまでは、自慢の弟として。想いを知ってからは、タブーを越えても大切にしたい恋人として。その想い人が、どうあっても自分の愛を信じない。自分が望めば、何でも受け入れてくれるけど。湫自身は、自分に何も望まないのだ。そばにいたいとは言うけれど、そばにいて欲しいとは言わない。愛してるとは言うけれど、愛して欲しいとは言わない。冒頭、湫の目線で祐瑚の暴言が語られますが、一周して再び、祐瑚のその台詞を聴くと。湫をなじっているのは、祐瑚の期待を湫が裏切ったからだと判る。俺の自慢の弟が。なぜ、それを信じてくれないのかと。

愛していると言いながら、湫は、決して祐瑚の愛を受け入れない。優しいけれど、内側は決して覗かせない。祐瑚は、だんだん判らなくなります。自分にとって湫は、一体何なのか。そして、湫にとって自分は、何なのかが。

そう、判らないから、祐瑚は湫を試すんですね。お前は、俺が欲しくないのか? こんな俺でも、まだ好きか? どうしてお前は、俺に何もさせてくれないのか? お前は俺を……見て、いるか?

湫はぞれを、全部許すという形で無視します。僕は大丈夫だから、兄さんは兄さんのしたいようにして。僕は、僕の気持ちだけあればいいから。兄さんは……いなくてもいいから。

和貴との最初の恋は、湫の想いが発覚する前だし、本当に恋だったのだと思う。けれど、再会してからの恋は、そんな湫の訳の判らなさから逃れるためのように見える。判りやすく自分を欲しがってくれる和貴に、つい惹かれたのも本当だけれど。祐瑚は飢えていたのだと思う。望まれることに。愛しているという実感に。

和貴は、判りやすく湫との対比だと思います。すごい自信家で、自分が必ず愛されると信じている。祐瑚が彼を愛していることを、無条件で信じてくれる。それは、祐瑚の飢えを満たすもので。極端ではあるけれど、祐瑚にとって「そうあって欲しかったもう一人の湫」でもあるのだ。多分、祐瑚は。和貴と関係を重ねながら、湫との間では得られなかったものが何かを知ってゆく。こんな風に湫を愛したかった、こんな風になじられたかった、こんな風に、信じて欲しかった、と。

だから、祐瑚はどちらも手放せなくなった。刺激だけが理由じゃないです。そして和貴も、それは判っていた。ここで、分の悪い賭けに出る和貴が切ない。和貴は、自分が祐瑚の欲しいものを与えてやれることを知っているのと同時に、祐瑚がそれを誰から欲しがっているのかも知っているのだ。和貴は、あくまで傲慢に祐瑚に迫ります。自分と湫と、どちらかを選べと。自分のポーズは崩せないけど、それは、本気の賭け。そして本気だったからこそ、湫を選んだ祐瑚を「許さない」と告げます。そしてそれさえも、実は祐瑚が湫から欲しかった言葉だったりするのだ。皮肉にも。

このシーンがなあ。別録りで切ないよう。十分に迫るシーンではあるけど。三木さんも檜山さんも、もっと出来る人だと思うから。傲慢に見える和貴の台詞も、泣くほどうろたえる祐瑚の台詞も、もっとこう、なんかあったはずだと思っちゃう。ここでめいっぱい祐瑚が傷つくからこそ、後の湫との会話が映えるのに。「許さない」和貴と、「許す」湫との対比とか。くそう。

祐瑚のヒドさの真骨頂、「俺はお前のために和貴をあきらめたのに! お前は俺を本当に愛してなんかいないんだ!」ですが。身勝手なようだけど、湫の今までの仕打ちを思えば、自分は判るんだけどな。湫の兄を想う気持ちは湫だけのもので。愛していると言いながら、それを祐瑚に与えてくれてはいなかった。和貴との関係でそれに気づいた祐瑚が、ようやく湫をなじることができたシーン。
ただまあ、湫も譲らないですよ。確かに、湫にとって「兄さんを愛すること」は何よりも大事にしてきた想いなのだろうから。大切で大切で、他に何もいらないくらい大切で。そう、その想いさえあれば、兄そのものさえいらないくらいに。
「俺には、お前さえいれば大丈夫だってことを教えてくれ」は象徴的な台詞ですね。湫だけいればいいと、今まで思えなかったわけだ。今までは、湫だじゃ満たされなかったってことですよね? 愛されてるのに。そして、愛しているのに。

「僕たち(俺たち)は最高に幸せだった」と言ってこの話は終わるのだけど。多分また繰り返す。祐瑚は自分の渇きを湫だけで満たすことに決めてはみたけれど、異様な独占欲はまだ飢えている証拠なわけで。満たされたというよりは、囚われたという表現が正しい気がする。そしてどれほど湫を貪っても、貪れば貪るほど、また飢えていく。祐瑚が湫を壊してしまうのが先か、罪悪感に祐瑚が壊れてしまうのが先か。そんな、危ういエンディングだと思うです。まだそこまで行っていない、つかの間の蜜月だから「最高」なのかなあ。

とりあえず、全力で祐瑚を分析してみましたw 萌えるかっつーと微妙だけど、でも、面白かった。この話に対して、ヒステリックに反応してしまう気持ちも判る。登場人物が表層しか語らないので、判りづらいのにすごく痛い話だ。淡々と物語は進むのに、登場人物の行動がいちいち心のヤなところを抉る。自分が嫌っている人は自分のヤなところを持ってる人だ、という説がありますが、そんな感じなんだもん。この話には弱い人しか出てこなくて、ちっとも夢を見せてくれない。彼らの行動に、色んなものを突きつけられてしまう。
いやはやすごい話だったなあ。

キャストの皆さんには突っ込んだ話を聞いてみたい。フリトはあったけど、そういう雰囲気ではなくて。演じることで彼らの感情をどう追体験したのかは、ちょっと聞いてみたいなー。

檜山さんは、自嘲する祐瑚のモノローグが抑え気味なのがすごいと思った。あの辺すごくややこしいんだよ。湫が祐瑚を許しちゃってるから、祐瑚自身も自分を許そうとしてるんだよ。でも、本当は許してないの。自分自身を心底許せないと思わないと、罪悪感には浸れない。そして、浸れれば苦しいけどうっとりできるし、実はそうやって、自分を癒せるんだけども。(思い切り苦しめば、どこかで「この辺にしといたるか」と思えるようになるから)あそこね、湫は自分が兄を許すことで、兄が罪悪感に浸って癒されることを許可してないのね。癒せないから、壊れてきちゃう。その辺の、じんわり壊れていく感じがすごいなあと。あと、あんまり難しいことが考えられない感じが出てるのもよかった。

鳥海さんは、兄を愛していると言いながら、兄に対して心を開かない湫を、やや固い感じで。全部許しちゃう湫もむつかしいんだ。迫る祐瑚に操られるように「行かないで」と言う辺りがよかったス。

三木さんは、遊び人で妖艶な和貴を低めの声で。和貴も和貴なりに弱い人なんだよなあ。ああだけど。上では悔しがりましたが、最後まで「自分が」祐瑚を好きだと言えない和貴を、傲慢になり過ぎない感じでやっていました。

自分はすんごく面白かったんですけど、考えすぎたかなあ。なんかこの感想文、4日くらいかかってるんですよw すごい書き直した。ヤなやつばっかり!と投げてしまうのは、もったいなかったんだ。うっとりさせてはくれないけど、でも、のめりこんでしまいました(笑)

3/15追記。原作読みました。めずらしくレビューもしたのでこちらからどうぞ。